福岡高等裁判所 昭和37年(く)19号 決定 1962年12月22日
少年 M(昭二〇・一一・一〇生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、少年は、中等少年院に送致する決定を受けたが、中等少年院に送致することは実質的には処罰するに等しい。少年は中等少年院においてその自由意思を抑圧され両親等との共同生活を奪われる結果少年の自尊心を傷け延いては更生の意欲を減退させるにすぎない。少年の両親は中等度の農業を経営し健全な生活を送つているから少年の保護、指導に欠くるところはない。又少年は魚釣りや鳩の飼育等の趣味を有することからも窺われるごとく本来穏和な少年であつて非行の前歴もないこと故本件送致決定は不当であるから、原決定を取消し少年法第二四条第一項第一号の処分を求むというにある。
よつて按ずるに、少年を少年院に送致するは、本件のごとく非行のあつた少年の性格を矯正し且つ環境の調整を図るために行われる保護処分の一つであるから、少年がある程度の自由を制限され一家団欒の楽しみを絶たれることは止むを得ないところであつて、かかる制限を受けるからといつて直ちに刑罰と同一視するはあたらないのみならず、少年の更生の意欲を減退させるということもできない。そして、本件記録によれば少年は友人二名と共に少女を強姦して同女に傷害を加えるような悪質な非行を敢行したものであり、少年がその性格や情緒に徴し、環境と交友関係との如何によつては突発的に重大な所為に及びかねない危険性を有することが看取されるから少年に対し十分に矯正教育を施し道義的責任を自覚させる必要が認められるところ、その両親にこれが能力のないことが明らかであるから少年の健全な保護教育を図るために必要であるとしてなした原決定は相当であつて、記録を精査するも原決定に法令の違背、重大な事実の誤認は存しない。
よつて、本件抗告は理由がないから少年法第三三条第一項により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岡林次郎 裁判官 中村荘十郎 裁判官 臼杵勉)